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診療案内

肝胆膵外科

年間50〜60件の膵頭十二指腸切除術を行っており,
難易度が高い本術式も徐々に鏡視下手術の割合が増えてきています。

膵がんとは?

膵がんとは膵臓に発生した悪性の腫瘍の総称であり、その多くは膵液が流れる“膵管上皮”の細胞に遺伝子の変異が蓄積しこれが悪性化することで発生します。悪性化した膵管上皮の細胞(がん細胞)は無秩序に増殖し、やがて膵管を超え膵臓の内部へと広がっていきます。このように膵管を超えて広がったがんは“浸潤性膵管がん”と呼ばれ、以下に示す様々な経路で全身へと広がっていきます。

局所進行

膵をおおう膜を超え膵外の組織へがん細胞が広がることを指します。周囲の臓器(胃、十二指腸、大腸)や血管(門脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈)、神経へとがん細胞が浸潤し痛みや食事が取れないなどの症状が出ます。

リンパ節転移・遠隔転移

膵内のリンパ管や血管の中へがん細胞が侵入し、リンパ節や他の臓器へがん細胞が転移することを指します。臓器への転移で最も多いのは肝臓で、その他には肺や骨などへの転移がみられます。転移した臓器でがん細胞が増殖し、臓器が働かなくなります。

腹膜播種

膵外へ進展したがん細胞がおなかの中(腹腔内)に散らばり、おなかの内側を覆う膜にがんが転移することを指します。腹水が出たり、大きくなった腫瘍が腸を圧迫したりします。


日本では高齢化に伴い膵がんと診断される人が年々増えており、がんによる死因の4番目に数えられています。膵がんは進行が早く難治のがんとして長く知られていましたが、近年になって有効な抗がん剤が次々に開発されました。加えて、侵襲の少ない腹腔鏡手術の技術が向上しており膵がんは“治るがん”へと変わりつつあります。

 

膵がんの治療法

膵がんの根治が期待できる唯一の方法は手術による切除であり、“がんを残さず切除可能か否か”が治療法の選択において重要なポイントとなります。膵がんと診断されたら精密CT検査でがんの大きさや、周囲組織への浸潤の具合、リンパ節や遠隔転移の有無を明らかにし、“切除可能性”の判定を行います。

膵がんの切除可能性判定

CT所見 ステージ
切除可能 ・他の臓器に転移がない
・上腸間膜動脈または腹腔動脈に浸潤がない
・門脈に浸潤がないもしくはあっても軽微である
ステージ 1
ステージ 2
切除可能境界 ・門脈に高度な浸潤がある
・上腸間膜動脈または腹腔動脈に軽微な浸潤がある
ステージ 2
ステージ 3
切除不能
(局所進展のため)
・上腸間膜動脈または腹腔動脈に高度な浸潤がある ステージ 3
切除不能
(遠隔転移のため)
・他の臓器に転移がある ステージ 4

遠隔転移がなく膵周囲の動脈(上腸間膜動脈または腹腔動脈)への浸潤がないものは“切除可能膵がん”と呼び、切除により根治が期待できます。切除可能膵がんであっても手術の前に予め化学療法を行うことで治療成績が向上することが近年の臨床試験で明らかになりました。したがって当科では切除可能膵がんと診断した場合、手術の前に抗がん剤の点滴を2か月ほど行ったのちに手術を行っております。


膵がんの治療戦略

治療方針
切除可能 術前化学療法(点滴) → 根治切除 → 術後化学療法 (内服)
切除可能境界 術前化学療法(点滴) → CTで再評価 → 根治切除 → 術後化学療法(内服)
切除不能
(局所進展のため)
化学(放射線)療法
(定期的に評価を行い可能であれば根治切除)
切除不能
(遠隔転移のため)
化学(放射線)療法
(定期的に評価を行い可能であれば根治切除)

遠隔転移はないものの膵周囲の動脈や門脈に浸潤するなどして、そのまま切除してもがんが遺残する可能性が高いものは“切除可能境界膵がん“と呼ばれます。このような膵がんに対しては、近年開発が進んだ新しい抗がん剤による化学療法を2~3か月行い、がんを小さくしてから切除に臨みます。がんの進行程度や患者さんの健康状態を踏まえて、ジェムザールとアブラキサンの2剤併用療法か5-FU、イリノテカン、オキサリプラチンの3剤併用療法(FOLFIRINOX療法と呼びます)のどちからを行います。ジェムザール+アブラキサン併用療法は腫瘍の縮小効果が高く、良好な治療成績を示しています。化学療法では効果が乏しい場合は放射線照射を組み合わせるなどし、個別の状況に応じて最も効果が期待できる治療を選択しています。

切除可能境界膵がんに対する術前化学療法

ジェムザールとアブラキサンによる
術前化学療法により、腫瘍は縮小し門脈への浸潤も低減した。


このような集学的治療により、切除可能境界膵がんであっても切除可能膵がんと同等の切除成績を得ることができています。

当科における膵がんの切除成績(2012年〜2020年)


遠隔転移があったり、膵周囲の浸潤が広い範囲に及んでいたりして手術による根治ができない膵がんは“切除不能膵がん“と呼ばれます。膵がんの約7割はこのような進行した厳しい状態で診断されます。このようながんの治療には新しい抗がん剤治療に加え、がん遺伝子の状態に応じて治療方法を選択するゲノム医療も取り入れて行っております。また九州大学病院だけでなく学外の先端医療施設とも協力し、重粒子線治療や免疫治療も個別の状況に応じて柔軟に組み込み治療を行っております。様々な最新治療の導入により、当科では切除不能であっても腫瘍が縮小し切除できるようになった患者さんを多く経験しております。膵がんを諦めないをモットーに世界一の膵がん治療を目指し日々の診療を行っております。

切除不能膵がんに対するconversion手術

初診時は腹腔動脈へ浸潤を認める切除不能膵がんであったが
FOLFIRINOX療法を12か月施行し、 腫瘍の著明な縮小を認め根治切除に至った。


 

膵臓の手術

膵臓の解剖と周囲臓器 膵臓は胃の背側,脊椎の腹側に位置し,成人で長さ平均15cm,幅3cm,厚さ2cm,重さ60-100gの淡黄色を呈した臓器です.上腸間膜静脈・門脈という胃・小腸・大腸・膵臓・脾臓などの臓器からの血液が肝臓へと入っていく血管を境として,体の右側を膵頭部,左側を膵体尾部と呼びます.膵臓の手術は,取り除きたい腫瘍の位置によって,大きく膵頭十二指腸切除術と尾側膵切除術に分けられます。


膵臓の解剖と周囲臓器

 

1 膵頭十二指腸切除術

膵頭部に発生した膵癌・嚢胞性膵腫瘍を中心に、膵頭部に付着している胆管・十二指腸に発生した胆管癌や十二指腸乳頭部癌に対して膵頭十二指腸切除術を行っております。この手術は、膵頭部と胆管、胆嚢、十二指腸と胃の一部を同時に切除して腫瘍を摘出します。切除する臓器が多く、周囲に重要な血管も多いことから、切除に高い技術を要する上に、残った膵臓、胆管、胃をつなぎ合わせる再建が必要であるため,特に難易度が高い手術です。また,膵臓は強力な消化液である膵液を産生し、膵液瘻という合併症を引き起こすことがあるため、この手術による全国平均の死亡率は2-3%と、他の一般消化器外科手術の中では高くなっています。当科ではコメディカルスタッフや他科と緊密に連携してきめ細やかな周術期管理を行い、最近10年間の手術関連死亡率は0.16%でした。


膵頭十二指腸切除


膵頭十二指腸切除後の消化管再建

2 尾側膵切除術

膵体尾部に発生した病変に対して尾側膵切除術を行っております。膵癌や神経内分泌腫瘍の一部など、リンパ節転移の可能性があり、膵臓と一緒にリンパ節を郭清する必要がある場合には脾臓も合併切除します。嚢胞性膵腫瘍などの良性・低悪性度腫瘍に対しては脾臓を温存した尾側膵切除術を積極的に行っております。


脾温存手術とは?


嚢胞性膵腫瘍に対する腹腔鏡下脾臓温存尾側膵切除

 

当院の膵臓手術件数

年間50〜60件の膵頭十二指腸切除術を行っており,難易度が高い本術式も徐々に鏡視下手術の割合が増えてきています。特に,2020年にロボット支援下膵切除術が保険収載されてからはロボット支援下膵頭十二指腸切除術が増加し2021年には膵頭十二指腸切除術の約半分はロボット支援下に行いました。また,尾側膵切除術は全国的にも早くから大多数を鏡視下で行っております。

当科における膵切除術

膵頭十二指腸切除術

尾側膵切除術