(九州大学病院 代表) 092-641-1151

診療案内

上部消化管外科

現在では、ほぼすべての患者さんに
ロボット支援下手術を含む内視鏡外科手術を行っています。

対応疾患について

胃癌、食道癌、胃十二指腸良性腫瘍、胃十二指腸潰瘍

診療担当医の紹介

当科における食道がん治療の特色

当院では食道癌に対する内視鏡外科手術を1998年から開始しています。現在では、ほぼすべての患者さんにロボット支援下手術を含む内視鏡外科手術を行っています。当臨床・腫瘍外科(1外科)には、実際の手術ビデオで審査される「日本内視鏡外科学会技術認定」の専門資格をもった医師が10名以上在籍しており、高い技術レベルが要求される手術の低侵襲化(身体への負担軽減)を実現しています。また、食道外科専門医を中心に食道科認定医とともに高度な専門性を有した食道癌手術チームを組織しており、チームとして高いレベルの医療を提供しています。当臨床・腫瘍外科(1外科)には、「日本内視鏡外科学会公認ロボット支援手術プロクター」というロボット手術指導者資格を持つ医師が3名、専門のトレーニングを受けて認定されたロボット支援下手術の術者資格を持つ医師が7名以上在籍しており、外科チームとして高い技術レベルの手術を提供することが可能です。

当科における食道癌の治療方針

外科的治療(手術)

食道がんの治療法としては①手術、②放射線治療、③抗がん剤治療・免疫治療があり、通常いくつかを組み合わせて治療を行います。早期がん(Stage0)では内視鏡(胃カメラ)でがんを切除すること(内視鏡的治療;ESD、EMR) が可能な場合もあります。しかし、食道がんは比較的早い段階から高頻度にリンパ節転移をきたすことが知られ、ごく小さながんでも、手術が必要な場合があります。
食道がんの標準的な手術法は、①胸にある食道がんとリンパ節を切除(郭清)する(胸部操作)、②腹部のリンパ節を切除し、胃を使って、切除した食道の代わりに新たな食物の通過経路(胃 管)を作成する(腹部操作)、③首のリンパ節を切除し、残存食道と胃管を吻合する(頸部操作)から構成される、複雑で難しい手術です。また、気管や大動脈などの臓器にもがんが広がっている場合でも(がんの浸潤)、手術前に抗がん剤や放射線療法などの治療(もしくはその両方)で腫瘍を縮小させて手術を行うこともあります。また、がんを切除できず、食道がつまって食事ができない場合、または気管(支)食道ろうの症例に対しては、バイパス手術が行われることもあります。

鏡視下手術(胸腔鏡下(ロボット支援下を含む)・腹腔鏡下手術)

当科では1998年に、患者さんの負担を軽減する目的で、胸部操作を胸腔鏡(現在はロボット支援下)で、腹部操作を腹腔鏡で行う手術を開始し、以来多くの方々にこの手術を行ってきました。その結果、 痛みの軽減や早期回復 に寄与しています。従来の開胸開腹手術と比べて、内視鏡手術の利点は

  • 手術中の出血量が非常に少ない
  • 術後のきずが目立ちにくく、痛みが軽く早期の社会復帰が可能である
  • 高画質画面に微細な構造まで見えるため、精度の高い手術が可能になる
  • 術後の腸管の癒着が軽度である
などが挙げられます。

腹臥位胸腔鏡下(ロボット支援下)手術の方法


胸部操作

右胸に5か所、トロッカーと呼ばれる筒を挿入します。そのうちの1つのトロッカーからカメラを挿入して液晶モニターに映像を映し出し、それを見ながらその他のトロッカーから様々な器械類を挿入し食道周囲のリンパ節と食道を切除します。

ロボット支援下胸腔鏡下食道切除手術の導入


腹部操作

上記の腹臥位胸腔鏡下手術に関しては、2018年よりロボット手術を導入しております。手術の内容は変わりありませんが、このロボット手術の利点として、次が挙げられます。

  • 関節機能があるロボットアームによりより緻密な手術が可能である
  • 術者がロボットのカメラを操作することで安定した視野を確保できる
  • 3次元画像情報により立体的に臓器を認識できる
  • 人間の手ではどうしても発生する手ぶれを補正することができる

腹腔鏡補助下胃管再建術


左:従来の開腹創 右:腹腔鏡下の創

腹部にも同様にトロッカーを5か所挿入し、腹部のリンパ節の切除と胃の遊離を行います。その後、腹部を4 -5cmほど切開して食道と胃を引き出し、胃の入口付近を含めて食道を切除し、残った胃を管状に形成します。
胃切除後または胃に病変がある場合は結腸や小腸を再建に用います。再建経路としては、胸壁前、胸骨後、胸腔内(後縦隔)経路があり、症例により最も適する経路で再建臓器を頸部まで挙上します。
リンパ節郭清も重要で、通常頸部・胸部・腹部の3領域郭清を行います。

頸部食道がんの手術

頸部の食道がんでは頸部食道のみならず、通常、咽頭・喉頭(のど・声帯)の切除も必要なことが多く、耳鼻咽喉科医、形成外科医と共同手術を行います。術後は声を失うことになることもあり、術前・術後の指導、精神的サポートが重要です。頸部食道に限局したがんの手術では、通常小腸を用いて再建します。

腹部食道がんの手術

腹腔内の操作のみで切除されることも可能です。下部食道切除に胃全摘または噴門側胃切除術が追加されることもあります。

他臓器がんの合併、根治的化学放射線療法後のサルベージ手術(救済手術)

食道がん患者さんはしばしば咽頭がんや喉頭がん、胃がんなど他臓器のがんを合併しています。また、近年、食道がんに対して、根治目的に化学放射線療法が行われることが多く、その後の遺残、再発に対する治療として手術が行われることもあります。このような他臓器のがん合併例の手術、根治的化学放射線療法後のサルベージ手術(救済手術)は難易度が高く、術後管理も難しいことが知られています。外科、耳鼻咽喉科、形成外科、集中治療等の専門医やメディカルスタッフ(専門看護師、言語聴覚士、理学療法士など)が協力しチーム医療を行うことが極めて重要です。
また、1回の大きな手術では侵襲に耐えうることが困難な方に、食道の手術を2回に分割して(①腫瘍の切除、②再建術)行う場合もあります。

術後の経過

手術当日は、安全のため集中治療室 (ICU)に入室して全身管理を行います。通常、手術翌日には一般病棟に戻り、歩行開始となります。術後経過が順調であれば、術後1週間目前後で食事を開始して、2-3週間を目処に退院となります。
食道がん手術は、頸部・胸部・腹部を一度に扱うため、一般的な他の手術と比べて大きな手術となります。そのため、当科では外科医師・看護師だけではなく、他科の医師・理学療法士・栄養士など多職種にわたるメディカルスタッフと密に連携をとりながら、質の高い周術期管理を行うよう取り組んでいます。
退院後は散歩から始めて、ご自身の体力を考えながら運動、運転、旅行に行くことも可能です。退院後職場へ復帰するのは数週間から1か月くらいかかることが普通です。食道がんの手術後は胃が管状になり、胸の中を持ち上げられていることから、食べ過ぎない、食べてすぐ横にならない、など日常生活の中で注意すべきことがあります。
当院では、食道がんに対する豊富な治療経験をもとに、病状にあった適切な術式を選択し、周術期管理を綿密に行うことにより安全で確実な外科治療を提供しています。

当科食道癌手術に占める鏡視下手術の割合

ほぼ全ての食道癌の患者さんで鏡視下手術に成功しています。


当科食道癌手術に占める鏡視下手術の割合
ほぼ全ての食道癌の患者さんで鏡視下手術に成功しています

最後に、喫煙者は必ず禁煙しなくてはなりません。術前にどれだけの期間で禁煙できたかが、術後の治療経過、重大な合併症の有無に大きく影響します。食道がんと診断されたらすぐに禁煙することをお勧めします。