(九州大学病院 代表) 092-641-1151

診療案内

乳腺外科

乳腺外科では、世界のデータとガイドラインに基づいて、
病状に応じた適切な治療法を提案します。

はじめに

現在年間約9万人の方が新たに乳がんになられており、10人にひとりがかかる時代です。乳がんは、平均すると5年生存率90%と比較的予後の良いがんといわれていますが、 そのことは逆に乳がんになられた後の生活が長いことを意味します。患者さんそれぞれ医学的・社会的背景が多様であり、それに応じて医療も様々です。 そんな時、「正しい知識こそが力」となります。ともに学び、QOL(生活の質)を重視した治療を目指します。

対応疾患について

乳癌、切除が必要な良性乳腺腫瘍

治療方針について

個人を尊重したがん治療を目指します。

乳腺外科では、世界のデータとガイドラインに基づいて、病状に応じた適切な治療法を提案します。 手術療法・化学療法・分子標的療法・放射線療法・免疫療法などの治療法、遺伝子診断を組み合わせたチーム医療と医療連携で、個人を尊重したがん治療を目指します。

診療担当医の紹介

乳腺外科の概要

得意分野

乳がんに対する手術では、根治性と低侵襲性・整容性の両立を目指しています。また、2008年より九州では最も早く乳がんに対する鏡視下手術を導入しました。さらに、遺伝性乳がんのご相談にも積極的に対応致します。遺伝カウンセリングとともに、診断のための遺伝学的検査、予防切除術、早期発見のためのサーベイランスが可能です。また、九州唯一のがんゲノム中核拠点病院としてがんゲノム医療に取り組んでいます。

診療体制

診療体制 日本乳癌学会認定医(2名)・専門医(3名)・指導医(2名)、臨床遺伝専門医(1名)などの専門のスタッフが、十分な知識と技術をもって診療にあたっています。 また外来化学療法では、認定資格を持った看護師が担当いたします。

診療方針

患者さん一人ひとりに対して、主治医・担当医を中心に、全スタッフが診療にあたるグループ診療を基本としています。 治療の開始にあたっては、手術や薬による治療(化学療法)、放射線療法などについて充分な説明を心がけ、患者さんに十分な理解と安心を得られるよう「わかりやすい医療」を目指しています。

対象疾患

乳がん、乳がんの疑いのある病変など

主な検査

マンモグラフィ、乳腺超音波検査、穿刺吸引細胞診、針生検、CT、乳腺MRI、骨シンチ、PET、骨塩定量、遺伝子検査など

主な治療

手術:

  • 乳房部分切除術(温存術)・全切除術、皮膚温存または乳頭温存乳房全切除術(皮下乳腺全摘術)、 センチネルリンパ節生検・腋窩リンパ節郭清術、一次乳房再建術(形成外科と連携)、鏡視下手術、乳腺良性腫瘍に対する腫瘍摘出術など
  • 化学療法(術前・後、進行・再発に対して)
  • 内分泌療法(ホルモン治療)
  • 分子標的治療

 

乳腺外来受診のご案内

当科では日本乳癌学会専門医の資格を持った医師が診察を行っています。

1、新規

毎週火曜、木曜に予約を受け付けています。予約の上、必ず紹介状をご持参ください。(外来受診方法をご参照ください)ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。 来院の際は時間に十分余裕を持っておいでください。
初診当日に、必要に応じて触診、超音波検査、乳房撮影、穿刺吸引細胞診、組織検査を行い、診断、治療方針、検査予約、入院予約を行います。
このため、諸事情により長時間お待ちいただく場合があります。

2、再来

乳腺再来は予約制です。毎週火曜、木曜の午前9時30分から午後4時00分までの予約診療を行っています。

3、セカンドオピニオン

(今通院中の病院以外の施設で、改めて診断を行うこと、または診断や治療方針について意見を聞くこと) も受け付けております。

 

おもな手術

1、乳房部分切除術(温存手術)

腫瘤の大きさや位置、病変の広がり、乳房の形や大きさといった個人差により、同じ術式であってもさまざまなケースがあります。乳房(乳腺組織)が残ったとしても、大きく変形したり、左右のバランスがくずれては、満足度の低い手術になってしまいます。また、乳房を残すことにこだわりすぎて再発が増えてしまっては大きな不利益となります。 当施設では、手術の適応について多角的に検討を行い、根治性と低侵襲性・整容性の両立を目指しています。通常、部分切除後には放射線治療を組み合わせます。

2、乳房全切除・皮膚温存または乳頭温存乳房全切除術(皮下乳腺全摘)

腫瘍が乳頭に近い場合もしくは広い範囲に及ぶ場合は乳房全切除をおすすめしています。腫瘍が大きく通常の乳房温存(通常腫瘍が3cm以下)ができないけれども、皮膚や乳頭が残せる場合は、皮膚の下の乳腺をすべて切除する手術を行うことができます。また同時に、背中の筋肉と横腹の脂肪を胸に移したり(自家移植)インプラントを挿入して、乳房を再建する手術を行っています。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の方には、発症予防のための乳房全切除術が2020年4月より保険適応になりました。遺伝カウンセリングを受けていただきながら、ご相談することができます。

3、組織拡張器・インプラント挿入、自家組織再建

どうしても(乳頭を含めた)乳房全切除が必要な場合で乳房再建をご希望の方のために、組織拡張器による乳房再建を状況に応じてご提案しています。形成外科医と共働し、乳房全切除後もしくは同時に組織拡張器という特殊プラスチックでできた袋を皮膚の下に入れ、生理食塩水を少しずつ注入して乳房のふくらみに見合った皮膚のゆとりをつくります。その後シリコンや自家組織による乳房再建と乳頭乳輪再建を行います。HBOCの場合も再建術は保険適応です。

4、拡大乳房切除・皮弁による胸壁再建

腫瘍が大きく通常の切除ができなくなった方には、腫瘍ごと皮膚を広く切除し、腹部から皮膚・脂肪・筋肉(腹直筋皮弁といいます)を広く取ってきて胸を再建する手術を行っています。特に腹部の皮膚と脂肪に余裕がある方は、20cmx30cm以上の皮膚をおおうことが可能です。広い皮膚移植が必要でなければ、下腹部や大腿から皮膚のみの移植をします。

5、リンパ節に対する手術

ⅰ) センチネルリンパ節生検;乳癌から最初に転移をすると考えられている腋のリンパ節(腋窩リンパ節)を「センチネルリンパ節」と呼びます。もともと腋窩リンパ節転移が分かっていない場合、このセンチネルリンパ節を同定・摘出し、病理検査にて診断する方法を「センチネルリンパ節生検」と言います。当科では、乳房の手術に際し、このセンチネルリンパ節生検を行い、手術中の迅速検査でセンチネルリンパ節に大きな転移がなければ、腋窩リンパ節を広範囲に取る「腋窩リンパ節郭清」を省略しております。このことにより、術後のリンパ浮腫や神経障害、可動域制限等の発生頻度を抑えることができます。世界的にも標準治療として確立されています。転移が明らかなになった場合は、腋窩リンパ節郭清を追加する場合があります。

ⅱ) 腋窩リンパ節郭清;もともと腋窩リンパ節転移が明らかな場合や、上記のセンチネルリンパ節転移陽性の場合、センチネルリンパ節生検が適応とならない場合は、乳房の手術に際し、腋窩リンパ節郭清を行います。腋の血管や神経周囲のリンパ節を脂肪ごと取ってくる方法で、後治療を考えるためのステージングや局所再発抑制において有用です。その反面、神経障害による疼痛や知覚障害、リンパ浮腫、肩関節の動きが悪くなる、といった合併症もあります。ただ、これらの症状は時間とともに改善したり、マッサージやリハビリで回復することが期待されます。

6、良性腫瘍に対する手術(腫瘍摘出術)

線維腺腫や葉状腫瘍、乳管内乳頭腫といった良性病変に対して手術を行っています。通常は全身麻酔下にて、腫瘍摘出を行います。病理検査の結果次第では、追加の治療が必要になる場合があります。

 

乳腺外科グループの概要

診療実績

1、手術

2、化学療法 術前・術後・転移再発化学療法

がんゲノム医療への取り組み

1、遺伝性乳癌卵巣癌症候群

遺伝性腫瘍である、遺伝性乳癌卵巣癌症候群に関連する遺伝子検査を積極的に行っています(保険適応)。 変異陽性者に対する、遺伝カウンセリング、予防的治療、早期発見のための画像検査など

2、その他、乳癌に関連する遺伝性腫瘍

  • リ・フラウメニ症候群
  • カウデン症候群
  • ポイツ・ジェーガス症候群 など

3、次世代シーケンサーを用いたがん遺伝子検査

乳癌患者さんの組織や血液検査を用いて、一度に多数のがん関連遺伝子を調べることで、標的を同定し、治療に結びつけます。

トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)

乳腺グループでは、臨床・腫瘍外科の腫瘍研究室として、乳腺腫瘍を中心に、基礎研究を行っています。当研究室では歴史的に、乳がんの発がんや増殖因子(ヘッジホッグシグナル)、薬剤耐性機構の解明をはじめ、難治性乳癌の標的治療としての乳癌幹細胞の研究を主に行ってきました。近年では、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、免疫チェックポイントPD-L1、T-bet、グランザイムB、ネオアンチゲンといった腫瘍免疫に関わる分野、BRCAnessを中心とした遺伝性腫瘍、さらにはシングルセル解析、人工知能(AI)診断などバイオインフォマティクスを駆使した研究にも取り組んでいます。一方、オートノミーや細菌(マイクロバイオーム)が乳がんに与える影響など、ユニークな視点での研究も行っています。これらは、基礎研究のみならず実際の臨床とのやりとりを行いながら進めています(トランスレーショナルリサーチ)。これらの結果は、ちかい将来、乳がん患者さんのための診断や治療、ひいては乳がんの予防に寄与できるものと信じ、日々研究に取り組んでいます。